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コンパートメントモデルを利用すると、薬物の単回投与実験の結果から、その薬物を反復投与した時の体内動態をシミュレートすることができます。 例えばt1(=0)時間に用量q1を静注または内服で投与し、…、tj時間後に用量qjを投与し、…、tp時間後に用量qpを投与したとします。 この時の血中濃度の変化つまり血中濃度関数Cc(t)は、単回投与のコンパートメントモデルによる血中濃度関数をCc(t,qj)とすると次のようになります。
時間間隔hで用量q0を反復投与して定常状態になった時、第j回目の投与において投与時間をt = 0とすると、この時の血中濃度関数は次のようになります。
反復投与モデルを長い目で見れば、持続注入速度をk0 = q0/hとした持続注入モデルとみなすことができます。 そのため平均血中濃度の変化は持続注入モデルと同一になり、ほぼ定常状態に達するまでの時間は投与量や投与間隔とは無関係に速度定数だけで決まります。 例えば静注1コンパートメントモデルでは、(3) 静注1コンパートメント持続注入モデルと同様に次のようになります。
くどいようですが、近代科学の特徴は数学という科学言語を使って仮説演繹法を厳密に実施する点にあります。 コンパートメントモデルの本来の目的も簡単な仮定から実際のデータをうまく説明すると同時に、基本的な実験結果から推測されたモデルとパラメーターを用いて条件を色々と変えた時の結果を事前に予測し、必要に応じてシミュレートすることにあります。
具体的にいえば、単回投与実験のデータに基づいて最適なコンパートメントモデルとパラメーターを推測し、それを用いて反復投与した時の体内動態をシミュレートします。 そして最小濃度Cminを有効濃度以上に、かつ最大濃度Cmaxを危険濃度未満にし、平均濃度Cmeanを最適濃度付近にするためにはどのような用法用量が適しているか、といったことを検討するわけです。 単なる実験結果の現象論的な羅列だけで終始しやすい薬学を現代的な学問に変換する意味で、これは大きな進歩と言えるでしょう。