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用量q0を急速静注し、瞬時に血液区画に一様分布し、徐々に組織区画に分布してから血液区画に戻り、徐々に体外に排出されるモデル。 (1)と同じ表14.3.1のデータにこのモデルを当てはめると、静注1コンパートメントモデルよりもうまく当てはまります。 そして静注1コンパートメントモデルと比較すると、このモデルでは薬物が血液区画から排出されると同時に組織区画へも分布するので最初のうちは血中濃度が急速に減り、その後は血液区画から薬物が戻ってくるので血中濃度の減り方が緩やかになることがわかります。 (注1)
時間(hr) | 0.25 | 0.5 | 1 | 2 | 4 | 6 |
---|---|---|---|---|---|---|
血中濃度 | 52.5 | 32.5 | 16.7 | 7.3 | 1.7 | 0.3 |
薬物を持続注入し、血中濃度が一定になった状態を定常状態(steady state)といいます。 この時の分布容積Vssは、次のように血液区画の分布容積Vcと組織区画の分布容積V2を合わせたものになります。
静注2コンパートメントモデルにおけるβ相つまりtが大きい部分は、内服1コンパートメントモデルと違って排出部分をそのまま反映するわけではなく、血液区画からの排出と、組織区画から血液区画に戻ってくる分の合成されたものになります。 そのため本来はβ相に意味はあまりありません。 しかしβ相を排出部分と考え、βを排出速度定数のように考えてしまった時の仮想的な分布容積を「Vβ」と書いて参考までに値を求めることがあります。 VβはAUC(∞)と排出速度定数keの関係を利用して次のようにして計算します。
また皮むき法の原理を応用してβ相を単純な指数関数で近似し、その関数をt = 0の点まで外挿することによって初期濃度Bを求めることができます。 そして初期濃度Bと投与量q0から、Vβを近似的に求めることができます。 この近似的な分布容積のことを「Vext」と書きます。
これらの分布容積は全て初期濃度と速度定数から計算することができ、それらの間には次のような関係があります。 ただし本質的に意味があるのは血液区画の分布容積Vcだけです。
静注2コンパートメントモデルについて、時間−薬物量関数q(t)を用いて色々な区画における薬物量の時間変化を表すと次のようになります。
体内の薬物量が半減する時間は体全体の薬物量関数qT(t)が半減する時間であり、血液区画の薬物量が半減する時間は血液区画の薬物量関数q1(t)が半減する時間です。 しかし残念ながらどちらも簡単な計算式では求められません。
薬理反応は薬物の反応部位つまりレセプターのある部位における薬物濃度の影響を受けるはずです。 そのため反応部位が血液区画ではなく組織区画の時は、血中濃度の変化ではなく組織内濃度の変化を問題にするべきです。 また逆に薬物の反応を経時的に観測し、それがq1(t)、q2(t)、qT(t)の中のどの関数と似ているかを調べることによって薬物の反応部位や薬理作用との関連性を検討することもできるでしょう。
このようにコンパートメントモデルを利用すれば、血中濃度の変化だけでなく、普通は直接観測することが困難な組織内濃度の変化をシミュレートすることができます。 そしてそれによって薬理作用についてより詳細な検討をすることが可能になります。
表14.3.1のデータの2〜6時間をβ相と考え、血中濃度を対数変換して直線回帰によってパラメーターBとβを求めると次のようになります。
次にこれらのパラメーターと0.25〜1時間のデータを用いて、皮むき法によってパラメーターAとαを求めると次のようになります。
これらの値を初期値としてガウス・ニュートン法でパラメーターを求めると、50回以上の反復計算の結果、次のような値に収束します。
これらのパラメーターの値を用いてk21、ke、k21を計算することができます。 そしてそれらの値を用いて他のパラメーターの値も計算することができます。