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○相対性原理

ある物理法則を異なった立場から見た時、その法則の基本構造が変化しないことです。 数学的に表現すれば、ある物理法則の方程式が特定の座標変換に関して形式を変えない時、これを共変的といい、そのことを相対性原理といいます。 例えばニュートンの運動方程式は、互いに等速度運動をしている座標系における次のような座標変換に関して共変的です。

x' = x − vt  y' = y  z' = z
ただし
t:(絶対)時間
x, y, z:慣性座標系Sにおける空間の直交座標
x', y', z':Sと等速度vで相対運動している、別の慣性座標系S'における空間の直交座標

この座標変換をガリレイ変換といい、物理法則がガリレイ変換に関して共変的であることをガリレイの相対性原理といいます。 しかしマックスウェルの電気力学方程式はガリレイ変換に関して共変的ではなく、空間座標と時間に関するある特別な線形変換──ローレンツ変換に関して共変的です。 このニュートンの運動方程式とマックスウェル方程式との間の矛盾は多くの科学者達を悩ませました。 そこでアインシュタインは、時間と空間について深く洞察することによってその矛盾を解決しました。

ローレンツ変換は、マックスウェル方程式とは独立に、ある特別な速度──光速度を不変にするような線形変換群として定義できます。 このことと光速度がどんな観測者にとっても不変であるという実験事実から、彼は全ての物理法則はローレンツ変換に関して共変的であると考えたのです。 これを特殊相対性原理といい、この原理に基づいて組み立てられた理論を特殊相対性理論といいます。

特殊相対性理論は互いに等速度運動をする座標系に関して成り立つ理論であり、その新奇な特徴は時間と空間を独立で絶対的なものとせず、4次元時空として総括的にとらえ、時間と空間の概念を根本的に変えてしまったところにあります。

特殊相対性理論の成功により、特殊相対性原理から等速度運動という条件を取り去ってしまっても相対性原理は成り立つのではないか、つまり互いに任意の相対運動をする座標系に関しても全ての物理法則は形式を変えないのではないとか、という期待がわきます。 そのためには線形変換であるローレンツ変換の代わりに、座標の解析的な連続変換である非線形変換群──テンソル変換を用いる必要があります。 それにより、全ての物理法則はテンソル変換に関して共変的であることが期待できるようになります。

これを一般相対性原理といい、この原理と、慣性質量と重力質量が原理的に等価だという等価原理によって組み立てられた理論を一般相対性理論といいます。 一般相対性理論は等価原理に基づく理論ですから、必然的に重力に関する理論となります。

一般相対性原理は時空座標に関するものですが、これを時空に限らずあらゆる物理量に関する座標にまで拡張し、全ての物理法則はどんな座標を使っても成り立つような形式でなければならないという考えがあります。 座標の取り方を変えても成り立つ関係のことをゲージ不変な関係といい、ゲージ不変な関係を満足している物理理論のことをゲージ理論といいます。

ゲージ理論は量子力学において、電磁気力と弱い相互作用力を統一した統一理論(ワインバーグ・サラム理論)や、それに強い相互作用力まで統一した大統一理論(GUT)に用いられて成功を納めています。

一般相対性理論は重力に関するゲージ理論の一種ですが、繰り込みができないため他の力と統一することが困難であり、まだ統一されていません。 アインシュタイン翁晩年の夢自然界の全ての力の統一理論は、いまだ見果てぬ夢のままなのです。

○重力レンズ効果

重力による空間の歪みで光がレンズを通したように屈折する現象のことです。 一般相対性理論によれば、重力というものは4次元多様体としての時空が質量によって湾曲することに由来するものであり、光はどんな場合でも必ず最短距離を通る性質があるため、重力場の中を通る光線は歪曲した空間にそって歪曲した軌跡を描くことになります。

一般相対性理論の検証として最初に観測されたのが、この原理に基づく太陽の重力場による光線の湾曲効果だったことはよく知られています。 これは、太陽が近くにあると光線の湾曲効果によって恒星の位置がわずかにずれることをエディントンらが日食を利用して観測したもので、この観測結果によってアインシュタインと相対性理論の名が一躍有名になりました。 ちなみにこの観測は、第1次世界大戦真っただ中の1919年に、ドイツのアインシュタインのために、敵国であるイギリスのエディントンらが行った観測という意味でも驚嘆すべきものでした。

強い重力場を持つ天体があると、光線の大きな湾曲効果によって、ちょうどレンズのような効果があるのではないかという重力レンズ効果のアイデアは、1935年にチェコの電気技師だったマンドルという人が、アインシュタインに手紙を書いて質問し、それに答えてアインシュタインが1936年に論文を発表したのが最初だと言われています。

そして1979年、ジョドレルバンク電波天文台のウォルシュらによって、奇妙な双子のクェーサー(準星)が発見され、それが、クェーサーと地球との間にある銀河系全体の重力レンズ効果によって、1つのクェーサーから出た光が2つに分かれて地球に届いているものであることが確認されました。 このニュースは一般新聞などにも載り、かなり話題になりましたから御存知の人もいると思います。 同じ様な天体はその後も発見され、つい最近も重力レンズ効果による4つ葉のクローバー型の天体が発見され、一般新聞でも話題になりました。

重力レンズ効果については、科学者兼SF作家である石原藤夫が「銀河旅行と一般相対論」(講談社ブルーバックス)の中で詳しく論じています。 この本にはブラックホールによる重力レンズ効果のコンピュータシミュレーション像も載っていますので、興味のある人は読んでみてください。

重力レンズ効果はSF小説のネタにすると面白いと思いますが、寡聞にして、これを使ったSFは、石原藤夫のSF小説「銀河を呼ぶ声」(短編集『画像文明』より、早川書房)と、星野之宣のSFマンガ「鳥の歌いまは絶え」(オムニバス長編『2001夜物語』より、双葉社)くらいしか知りません。 どなたか重力レンズ効果を使った面白いSFを御存知ありませんか?

○ブラックホール

非常に強い重力のせいで光すら脱出することができず、何でも吸い込んでしまう宇宙の落とし穴、ブラックホール──今や日常用語にまでなった感がありますから、たいていの人が御存知だと思います。 SFでも今やブラックホールそのものを主題にするのではなく、物語の小道具として使う時代になっています。

一般相対論において、4次元時空における計量(固有時)を、

(Δs)2 = Δ'Δ   
:計量テンソル   gij:計量テンソルのij成分
Δ:4次元時空の座標ベクトル   Δxi:座標ベクトルの第i成分

と表すと、計量テンソルを決定するアインシュタインの重力場方程式は次のようになります。


:リッチ・テンソル   :エネルギー・運動量テンソル
r:スカラー曲率   κ = 8πg/c4:アインシュタインの重力定数
ただしcは光速度、gは万有引力定数

この方程式の解として最初に発見されたのが、ドイツの天文学者シュバルツシルトによるシュバルツシルト解です。 この解は中心部に質量Mを持つ物体(例えば恒星)がある場合の、完全に球対称な真空時空構造を表しています。 この時空構造においては、中心からある特定の距離──シュバルツシルト半径 rg=2gm/c2──以内のところでは、強い重力場のために光さえ外に出られなくなります。 光さえ外に出られないということは何物も外に出られないということですから、シュバルツシルト半径は事象の地平面と呼ばれることもあります。

質量Mに比べて恒星の半径が非常に小さく、このシュバルツシルト半径の内部に恒星がすっぽりと入ってしまうと恒星は全く光を出さなくなってしまいます。 これをホイーラーはブラックホールと名付けました。 また面白い偶然ですが、シュバルツシルトというのはドイツ語で「黒いシールド」を意味します。

ブラックホールは最初は理論的な存在にすぎませんでした。 しかしオッペンハイマーらが、恒星が重力崩壊を起こすと必然的にブラックホールになるという理論を提唱し、近年になりブラックホールらしい天体がいくつも発見されるにおよんで、俄然、実在の可能性が高くなってきました。

ブラックホールの候補として一番有名なのが白鳥座X-1というX線星です。 この星は白鳥座にある青色超巨星の伴星であり、光では見えないものの強力なX線を出しており、そのX線の様子や質量などの状況証拠から、まず間違いなくブラックホールだと言われています。

アインシュタイン方程式は時間反転に対して対称ですから、ある現象が可能なら、それを時間的に逆にした現象も可能となります。 このことからブラックホールを時間的に反転したものも理論的には可能となり、それをホワイトホールといいます。 ブラックホールは事象の地平面を通して物質を吸い込みますが、ホワイトホールは逆に事象の地平面を通して物質を吐き出します。 ただしブラックホールと違い、ホワイトホールは現在のところまだ理論的な存在にすぎません。

ブラックホールについては色々と解説書が出ていますが、古典的な解説書として「ブラックホール」(ジョン・テイラー著、講談社ブルーバックス)「相対論的宇宙論」(佐藤文隆・松田卓也共著、講談社ブルーバックス)を挙げておきます。

○ワープ航法

空間を歪ませることによって遠く離れた2つの地点を隣接させ、瞬時に膨大な距離を飛び越える超光速宇宙航法のことであり、簡単に言えば宇宙船のテレポーテイション(瞬間移動)です。 光速度を超える運動はできないということと、宇宙は何万光年もの広さがあるということが常識となってしまった現在、恒星世界を舞台にしたSF(特にスペースオペラの類)では必要不可欠になった技術のひとつで、宇宙戦艦ヤマトもエンタープライズ号もこのワープ航法を行うことができます。

ワープ航法の原理としては、空間を歪ませる以外にもハイパースペース(超空間または亜空間)やワームホール(時空の虫食い穴)を利用するものがあります。 ハイパースペースを利用したワープ航法は、例えばポール・プロイスの「天国の門」「地獄の門」(ともに早川書房)に登場します。 この作品では二重ブラックホールによってできたハイパースペースを利用してワープを行います。 ワームホールを利用したワープ航法は、例えばジョー・ホールドマンの「終りなき戦い」(早川書房)に登場します。 作品中ではブラックホールのようなコラプサーというものを利用するため、「コラプサー・ジャンプ」という名前で呼ばれます。

空間の歪曲もワームホールも、アインシュタインの一般相対論から理論的に導かれたものですが、残念ながら実際にはワープ航法に利用することは不可能のようです。 遠く離れた2つの地点を隣接させるほど空間を歪ませるには、膨大な質量が必要になります。 それほどの質量を小さな宇宙船によって作り出すことはまず不可能ですし、よしんばできたとしても、そんなものが近くにあれば、恐ろしく強大な潮汐力によって宇宙船はバラバラの原子にまで分解されてしまうでしょう。

ワームホールは時空多様体が多重連結である場合、つまり時空の2点を結ぶ世界線がスムーズに1本にできない構造になっている場合に発生する時空のトンネルのようなものです。 最も簡単なワームホールはアインシュタイン・ローゼン橋と呼ばれるもので、一方の端がブラックホール、他方の端がホワイトホールのような構造をしています。 このワームホールは時空多様体の創造時、すなわち宇宙ができる時にしか作り出すことができず、しかも内部は強烈な潮汐力に満ちているため、もしあったとしても、ワープに利用することはできないでしょう。 まあ、宇宙規模でのゴミ捨て場としてなら利用できるかもしれません。

また重力の量子論的な効果が重要になってくるプランク長(1.61×10のマイナス35乗メートル)程度の時空構造の研究から、ホイーラーはアインシュタイン・ローゼン橋とは別のワームホールを理論的に予想しました。 ホイーラーという人は、難解な科学現象に一般受けする名前を付ける名人として定評があります。 ブラックホール、ホワイトホール、そしてワームホールなどは以前から理論的に予測されていて、一部の科学者には知られていましたが、この人の実に直観的な命名によって広く一般人にまで知られるようになりました。

ホイーラーのワームホールは非常に小さくて(直径が10のマイナス35乗メートル程度)不安定な上、ワームホール内部での時間の遅れのため、ワームホールを通り抜けるのに必要な時間が、外部の正常な宇宙空間を移動するのに必要な時間と同じか、それ以上になることがわかっています。 これではとてもワープに利用できそうもありません。

ちなみにプランク長サイズのワームホールは別の宇宙とつながっている可能性もあり、そのようなワームホールのことをベビーユニバースと呼ぶこともあります。 ベビーユニバースについては、宇宙全体がプランク長程度だった時の問題とからめて、最近、ホーキング博士が盛んに論じています。

ワームホールは理論的にはあっても不思議ではない存在ですが、重力レンズ効果などと違って、その存在はまだ確認されていません。 なおワープについては「SFはどこまで実現するか」(ロバート・L・フォワード著、講談社ブルーバックス)に詳しい解説がありますから、興味のある人は読んでみてください。

○重力崩壊(gravitational collapse)

天体が自分の重力によって潰れ、限りなく収縮する現象です。 重力崩壊の結果できるのがブラックホールで、崩壊中に多量の重力波を放出します。 恒星は水素を燃料とした核融合反応によって燃えていますが、燃料が無くなるにしたがって、重力により収縮します。 その場合、星の質量によって最終的な形態は異なります。

まず星の質量が太陽の4倍以下の場合は、量子論的な効果である縮退圧力と重力がつりあうところまで収縮して白色矮星となり、やがて輝きを失って高密度の暗い星になります。 電子や陽子のようなフェルミオン(スピンが半整数の粒子)は、同じ状態に重なって存在することはできず、密度が上がると激しく運動します。 これが縮退圧力です。 縮退圧力を越えて密度を上げますと、電子が陽子に吸収されて中性子になるなどの反応が起こり、通常の物質とは異なった縮退物質となります。 白色矮星の一部も縮退物質でできていて、角砂糖1粒ぐらいの大きさで1トン以上もの質量があります。

星の質量が太陽の4倍から8倍までの場合は縮退圧力を越えて収縮します。 すると新たな核融合反応が起こり、大爆発を起こして全てが吹き飛んでしまいます。 これが超新星爆発です。

星の質量が太陽の8倍から30倍の場合は星の中心部に中性子のコアができます。 このコアは原子核と同じような状態であり、核力によってそれ以上収縮しない非常に固い物質なのでハードコアと呼ばれています。 重力によって収縮してきた物質は、このハードコアにぶつかって跳ね返されます。 この時、跳ね返りの衝撃波によって超新星爆発を起こし、後にハードコアだけが残ります。 こうして残ったハードコアが中性子星です。 中性子星は極度に圧縮された物質ですから、角砂糖1粒ぐらいの大きさで1ギガトン(1000000t)以上もの質量があります。

星の質量が太陽の30倍以上の場合は核力ですら重力を支えきれず、重力崩壊を起こして無限に収縮します。 そして星の半径がシュバルツシルド半径よりも小さくなったところで、ブラックホールとなります。

この重力崩壊をネタにしたSFアニメとして、庵野秀明監督のOVA「トップをねらえ!」(全6話)があります。 この遊び心いっぱいのハチャメチャアニメは、荒唐無稽な科学考証と、典型的なご都合主義的ストーリー展開にもかかわらず、やたらとパワフルで、観る者を引きずり込むようなムンムンとした熱気に満ちています。 タイトルからしてスポ根テニスマンガ「エースをねらえ!」のパロディであることからもわかりますように、ドジで泣き虫のヒロインと憧れのお姉様、それにお定まりのニヒルな鬼コーチを中心として、スポ根アニメ、学園少女アニメ、巨大変身ロボットアニメ、宇宙戦艦アニメなどを次々とパロディしまくり、随所にスタッフの楽屋オチ的お遊びが溢れているくせに、妙にシリアスで不思議に感動的です。

また美樹本晴彦のキャラクターデザインによる美少女達も可愛く、適度なチラリズムのサービスもあり、話と話の間に挿入される、”努力と根性”のハチャメチャ『お勉強コーナー』もけっこう楽しめ、さすがは”オタキング”岡田斗司夫のGAINAXが制作しただけのことはある、ユニークな傑作です。 興味のある人は、ぜひ一度ご覧ください。