共通の要因を持つひとまとまりの数字を縦か横に並べ、括弧で囲んだものをベクトル(vector)といいます。 例えば若夫さん、中夫さん、老夫さんという3名の人の年齢を縦に並べて次のように表せば、これは年齢という共通の要因を持つ1つのベクトルになります。
また若夫さんの年齢と体重を横に並べて次のように表せば、これは同じ人という共通の要因を持つ1つのベクトルになります。 つまりベクトルとは共通の要因を持つ一連のデータの集まりであると考えれば、感覚的に理解しやすいと思います。
人ベクトル:x'= | [ | 20 | 60 | ] |
: | : | |||
年齢 | 体重 |
ベクトルをアルファベットなどで代数的に表す場合、通常は上式のxのように太字の小文字で表し、普通の数字すなわちスカラー(scalar)と区別します。 ベクトルに含まれるスカラーを成分(component)または要素(element)といい、成分の数をベクトルの次元(dimension)、成分がn個のベクトルをn次元ベクトル(n-dimensional vector)といいます。 そして年齢ベクトルxのように成分を縦に並べたものを列ベクトル(column vector)または縦ベクトル、人ベクトルx'のように成分を横に並べたものを行ベクトル(row vector)または横ベクトルといい、両者を区別するために行ベクトルの右肩に「'」または「T」を付けます。
ベクトルを一般化して表現する時は、成分に添え字iを付けて次のように表します。
また全ての成分が0のベクトルをゼロベクトル(zero vector)といい、n次元のゼロベクトルを「0n」と書きます。 これはスカラーの世界でいえば「0」に相当するベクトルです。 さらに1つの成分だけが1で他は全て0のベクトルを基本ベクトル(elementary vector)といい、これはスカラーの世界の「1」に相当します。 ただしスカラーの「1」が1種類しかないのに対して、n次元の基本ベクトルは次のようにn種類つまり次元の数だけあります。
若夫さん、中夫さん、老夫さんの年齢と体重を一覧表形式で表すと次表のようになります。 これは年齢ベクトルxyと、体重ベクトルxwを横に並べたものとも、3個の人ベクトルx1'、x2'、x3'を縦に並べたものとも考えられます。
人\項目 | 年齢 | 体重 |
---|---|---|
若夫 | 20 | 60 |
中夫 | 30 | 55 |
老夫 | 40 | 50 |
このように列ベクトルを横に、あるいは行ベクトルを縦にいくつか並べたものを行列(matrix)といい、縦の成分数nと横の成分数pによって(n,p)型の行列または(n×p)の行列と表現します。 ベクトルを共通の要因を持つ一連のデータの集まりとすれば、行列は一連のデータを一定の規則に従って並べた一覧表ととらえることができます。 行列を代数的に表す場合、通常は上式のXのように太字の大文字で表し、ベクトルと区別します。 また列ベクトルは(n,1)型の行列、行ベクトルは(1,p)型の行列と考えれば、ベクトルも行列と同じように扱うことができます。
行列Xの列ベクトルを行ベクトルにした行列、つまり縦と横の成分を入れ換えた行列を転置行列(transposed matrix)といい、「X'」または「XT」または「tX」と書きます。 これは、次のように一覧表の縦と横を入れ替えたものに相当します。
行列を一般化して表現する時は、成分に添え字i、jを付けて次のように表します。 添え字は最初のものが行番号を、次のものが列番号を表します。
縦と横の成分数が等しい(n,n)型の行列をn次の正方行列(square matrix)といい、その対角線の位置にある成分を対角成分(diagonal component)といいます。
ベクトルと同様に、全ての成分が0の行列をゼロ行列(zero matrix)といい、(n,p)型のゼロ行列を「0n,p」と書きます。 また対角成分だけが1で他は全て0の正方行列を単位行列(unit matrix)といい、n次の単位行列を「In」と書きます。 単位行列は基本ベクトルe1 … enを並べたものに相当します。
単位行列のように、対角成分を中心として行と列の添え字を入れ替えた成分が等しい正方行列、つまり元の行列と転置行列が等しい正方行列を対称行列(symmetric matrix)といいます。 対称行列は応用範囲の広い重要な行列です。