玄関小説とエッセイの部屋小説コーナー僕達の青春ドラマ

【第2章 「起」の章】

そうこうしているうちに昼食の時間となって、持田家の人達と別荘の客全員が一階のホールに集まった。 ホールは20畳くらいの広さだろうか、とにかくやたらめったら広くて、やたらめったら豪華な感じだ。 ホールの真中あたりにこれまたやたらとでかいテーブルが置いてあり、そこに食事の用意がしてあった。 女中さんに案内されて自分の席に着いてみると、テーブルの上には花かなんか飾ってあるし、目の前には膝掛けらしいナプキンが置いてあるし、何だか結婚披露宴のようで落ち着かないことこの上ない。

伴ちゃんも僕に輪をかけて落ち着きがなく、借りてきた猫というよりも、借りてきたネズミみたいに、オドオド、キョトキョトとあたりを見回している。 ナプキンの使い道なんてもちろん知るはずもなく、「一体全体これは何をするもんだろう……?」てな様子で首をかしげて眺めていたので、 それを見ていた隣の席のミミちゃんが、気をきかせてそっと伴ちゃんの膝の上に掛けてやった。 でもそれは伴ちゃんの服が汚れるのを防ぐというよりも、テーブルや食器が伴ちゃんの服で汚されるのを防いでいる、と見た方が真実に近いことは請け合ってもいい。

全員がテーブルに着いてから、それぞれの紹介があって、僕等は初めて笹岡家の人達に紹介された。 この時、ミミちゃんと伴ちゃんは全く正反対の意味で注目の的だった。 何しろ笹岡家の人達もかつての美少女スター南井操を覚えていたようで、みんなが賞賛と感嘆の眼差しで彼女を眺め、例のドラ息子正氏なんて、まるでヨダレを垂らしそうな表情でミミちゃんを見つめていた。

それにひきかえ伴ちゃんは、間違って迷いこんだガード下の不浪児ってな姿の上、ミミちゃんがさも嬉しそうに、

「あたしの、一番大切なボーイフレンドです!」

なんて紹介しちゃったもんだから、男どもからは驚嘆と嫉妬の眼差しを、女達からは不信と嫌悪の眼差しを注がれていた。 ところが伴ちゃん本人はそんな周囲の視線を感じているのかいないのか、いつものように顔を赤くしてオドオドと恥ずかしそうにはしていたけど、 はにかみがちな人懐っこい微笑みを自然に浮かべて、卑屈なところはどこにもなかった。

おかげで雪子さんのボーイフレンドとして本来なら一番注目されてもいいはずのこの僕は、何だか影が薄くなった感じ。 食事中も、もっぱらミミちゃんにばかり質問が集中したもんだから、どさくさにまぎれて食事を楽しむ……とまではいかないまでも、多少ゆっくりと喉に通すことができた。

もっとも、緊張のせいで何を食べたのかほとんど覚えてないけどね。