玄関雑学の部屋雑学コーナー遺伝子検査と診断率

3.事前確率

陽性予測値と陰性予測値は感度と特異度だけでなく、ウイルス感染の事前確率(π0)つまり検査対象にした集団のウイルス感染者の割合にも影響されます。 検査対象集団のウイルス感染の事前確率が低いと、検査結果が陽性になった人(TP+FP)の中の本当の感染者(TP)の割合が小さくなるので、陽性予測値が低くなります。 その代わり検査結果が陰性になった人(TN+FN)の中の本当の感染者(TN)の割合が大きくなるので、陰性予測値は高くなります。

その関係は、やはり国立長寿医療研究センターの中村昭範先生が考案されたPN-plotというグラフを利用するとよくわかると思います。 (→当館の「統計学入門 9.2 群の判別と診断率」参照)

図9.2.2 実際の臨床現場での診断
実際の臨床現場では検査対象集団の事前確率が低いので陽性予測値は低くなる
図9.2.9 実際の臨床現場での診断 図9.2.10 実際の臨床現場での診断
※有病率=事前確率(π0)  PPV:陽性予測値曲線  NPV:陰性予測値曲線

ウイルス感染の事前確率と陽性予測値・陰性予測値の関係は、実際の臨床現場では非常に重要です。 例えばCOVID-19の場合、日本人全体を検査対象集団にすると、現在(2020年5月上旬)のところウイルス感染者の事前確率は約1.65万人/12,700万人≒0.0001299213(0.013%)です。 そのため陽性予測値は限りなく0に近く、陰性予測値は限りなく1に近い値になり、事実上、検査をする意義が無くなります。 つまり検査をして「陽性」になっても、本当にウイルスに感染している確率はものすごく小さく、事実上、無視できる程度なので検査をする意義がないのです。

しかし例えば1ヶ月以内にCOVID-19流行国に行ったことがあり、高熱が数日間続いている集団を検査対象集団にすると、ウイルス感染の事前確率はもっと高くなるはずです。 すると陽性予測値は高くなり、陰性予測値が低くなって検査をする意義が出てきます。