現在、主に用いられているRT-PCR(Real Time Polymerase Chain Reaction)という遺伝子検査は、全遺伝子――普通の生物ならDNA、ウイルスならRNA――中の特徴的な一部分を増幅し、それによって検体中に存在する遺伝子量を推測する手法です。 この遺伝子検査は遺伝子全体の量を測定するわけではなく、その一部だけを測定します。 そのため異物混入(contamination)による誤測定の可能性があり、精度はあまり高くありません。 しかし遺伝子量が微量でも迅速に測定することができるので、広く用いられています。
RT-PCR検査を用いてウイルス感染の診断をする場合、推測した遺伝子量が特定の境界値(cut-off point)以上なら、「陽性」として「遺伝子が存在する」つまり「ウイルスに感染している」と診断します。 その反対に遺伝子量が特定の境界値未満なら、「陰性」として「遺伝子が存在しない」つまり「ウイルスに感染していない」と診断します。
実際の検査では遺伝子の一部を何度も増幅し、一定の量(下図では0.784905)になるまでの増幅サイクル数(Ct値)を測定します。 この時、最初の遺伝子量が多ければ増幅サイクル数が少なくてすみ、最初の遺伝子量が少なければ増殖サイクル数が多くなり、遺伝子が存在しなければいくら増幅しても一定の量になりません。 そのため遺伝子量と増幅サイクル数は反比例し、増幅サイクル数から最初の遺伝子量を推測することができます。 そこで実際には、遺伝子量の代わりに一定の量になるまでの増幅サイクル数によって陽性か陰性かを判定します。
しかし現実の検査では本当に遺伝子が存在したので増幅したのか、それとも異物混入などによって増幅したのか判別するのが難しい時があります。 例えば上図の「10コピーの増幅曲線(怪しい陽性)」が異物混入によるものであれば、これは後で説明する偽陽性になります。 また検査用の検体を正確に採取するには技術が必要であり、うまく採取できないと被検者が感染していてもウイルスを検出できず、後で説明する偽陰性になってしまいます。 そのためこの検査を行うには専門的な知識と熟練の技を身につけた人材が必要です。
ところが今回のCOVID-19騒ぎが起きるまでは、RT-PCR検査がこれほど大量に必要とされる事態になるとは誰も予想していませんでした。 そのため人材が足らず、大量の検査を実施できる体制が整っていません。 このあたりのことについては、上記の西村秀一先生が書かれた「PCR論争に寄せて─PCR検査を行っている立場から検査の飛躍的増大を求める声に」をご覧ください。
またRT-PCR検査の原理と手順については、上記のLATB Staff氏が書かれた「絶対定量と比較定量の違いとは?リアルタイムPCRの主な4つのデータ解析方法」を参考にしてください。 RT-PCR検査を行うには専門的な知識と熟練の技が必要な上に、SARSコロナウイルス2(COVID-19の原因ウイルス)用のRT-PCR検査は開発されたばかりなので、まだ精度が低くて感度が30〜70%程度、特異度が90〜99%程度ではないかと言われています。