「ま、そういうわけで、今、100人の標本集団を無作為抽出したとして、その人達の体重を測定したら、平均値が60kg、標準偏差が10kgになったとするよ。
そうすると……」
「ちょっと待ってくれ、伴ちゃん。
その標準偏差10kgってのは、例数で割った値なのかい、それとも自由度で割った値なのかい?」
「当然、自由度で割った値だよ。
これから標準偏差って言う時は、みんな自由度で割った値なんだよ」
「推測統計学だからってわけだね」
「うん、そのとおり。
それで、この結果だけ見ると、確かに基準値50kgとは違うから、普通なら、『対立仮説の方が正しい』と結論するよね」
「ところがどっこい、アニはからんや弟バカリ、数学者は普通じゃないから、『帰無仮説の方が正しい』とでも結論するんだろ?」
「いくらなんでも、そこまでは言わないよ。
ただね、数学者はこう考えるんだよ、『平均値60kgというのはあくまでも標本平均だから、この結果をそのまま母集団に当てはめて、対立仮説が正しいと結論するのは、ちょっと早すぎるんじゃないかな?』ってね」
「それもやっぱり、推測統計学だからだね?」
「そうなんだよ。
だから、2つの仮説が正しい確率をそれぞれ計算してみて、どちらかの仮説がすごく大きな確率で正しいといえる時にしか、結論を言わないんだよ」
「つまり何だな、下手に結論を言って、後で間違ってたとわかっちゃうと、人から後ろ指を差されたりするから、よっぽど確実でなきゃ結論を言わないってわけかい?」
「うん、まあそういうことだね」
「コッスーッ!
そりゃコッスイわよ、伴ちゃん。
そんなミミッチー了見で、将来の日本を背負って立っていけるとでも思ってんの?
クラーク博士が泣いてるぞ、少年諸君!」
と、ミミちゃんが憤慨した口調で言った。
「そ、そんな、ぼ、僕に文句言われても……」
「だいち、男らしくないわよ、そんなの。
気に入んないわねェ、いけ好かないわー、断然、不愉快よっ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ、ミミちゃん。
ま、ちょっと落ち着きなってば、これは検定の話なんだから……」
「いいさ、いいさ、伴ちゃん、ミミちゃんには勝手に怒らせとけば。
下手に触わると噛みつかれるぜー」と、僕。
「ウ〜、ワンワンッ!」
「おー、コワ……。
で、伴ちゃん、その、仮説が正しい確率ってのは、どーやって計算するんだい?」
「それはね、前に説明したように、母平均はだいたい標本平均で推測できて、その推測誤差は標準誤差程度なんだから、今の場合……」
と言いながら、伴ちゃんは次のような式を書いた。
「……と、これぐらいの値だって推測できるよね?」
「うん、まあ、そんなとこだろーな」
「そこでこのことからね、標本平均が基準値50から離れれば離れるほど、それから標準誤差が小さければ小さいほど、『母平均μは基準値50とは違う』っていう対立仮説が、より信頼できるようになるよね?」
「何だって、何だってぇ!?
まーた、わけのわからんこと言っとるなぁ?」と言って、僕はミミちゃんを振り向き、「ミミちゃん、今のわかったかい?」
「オーッホッホッホ……」
「ダメだ、こりゃ。
伴ちゃん、もうちょっとわかりやすく説明してみてくれよ」
「つまりね、標本平均が60よりも70の方が、70よりも80の方が、『母平均μは基準値50とは違う』っていう確率は、より高くなるよね?」
「ふんふん、そこまでは何とかわかるな」
「次にね、標本平均が同じ60なら、標準誤差が小さいほど、母平均もより確実に60に近いわけだから、やっぱり『母平均μは基準値50とは違う』っていう確率は、より高くなるよね?」
「うーん、何となくわかるよーな気はするけど……」
「ミミちゃん、どう?」と、伴ちゃんがミミちゃんに尋ねた。
「オーッホッホッホ」
「……大丈夫?
いいかなぁ、また熱でも出てきたのかなぁ……?」と、伴ちゃんは真面目に心配顔だ。
「頭がこんがらがって、真空管が切れちゃったのさ、ミミちゃんは」と、僕。
「真空管!
LSIと言って欲しーわねー、時代遅れもいーとこよ、友則君」
「ミミちゃんが作られたのは、真空管しかなかった時代なのさ」
「『メトロポリス』の女性ロボットか、あたしはァ!?」
「真空管でもLSDでもいいけど、二人とも、このことわかってくれた?」
「大丈夫、大丈夫!」
「ミミちゃんは?」
「オッケー、オッケー、あたしに任せなさーい!」
「ほんと?」
「ほんともほんと、正真正銘ほんとーよ。
ハーイ、インディアン、嘘つかなーい、コメディアン、モチつかなーい!」
「じゃあ次行くけどね、このことから……」
と、伴ちゃんはまた式を書いた。
「……という値を定義するとね、このt値は、対立仮説が正しい確率と正比例することがわかるよね?」
「ん、そーね、よーっくわかるわ」
「イーッ!?」
何を血迷ったのか、ミミちゃんがあっさりとそう答えたので、僕と伴ちゃんは異口同音に驚きの声を上げた。
「『イーッ!?』って、何よー、その疑惑の眼差しはァ!」
「ほ、ほんとにわかっちゃったの、ミミちゃん!?」
伴ちゃんは、信じられないといった表情でミミちゃんを見つめた。
「えー、わかっちゃいましたわよ。簡単だもん、こんなの」
と、ミミちゃんは事も無げな顔付きだ。
「ほんとに、ほんと?
大丈夫?
やっぱり、熱でもあるんじゃないの?」
「熱なんかないってば、ほんとにもォー!
だいたい、あたしがわかってもわかんなくても、『大丈夫?』って心配するのは、どーゆーわけ、一体!?」
「そりゃー、伴ちゃんがミミちゃんに惚れてるからさ。
ミミちゃんが何したって心配なんだよ、彼は」と、僕。
「あら、そーなの?
それならそーと、はっきりそー言ってくださればいーのに、伴人さんったらァー」
「そ、そんなことないよ。
……な、ないことはないけど、い、今は、そんなこと、関係ないよ、やっぱり……」
純情な伴ちゃん、顔を真っ赤にしてシドロモドロになってしまった。
「ほらね、ミミちゃん? 伴ちゃん、馬鹿正直だから、嘘つけないんだよねー」
僕がそう言うと、ミミちゃんは締まらないことこの上ない表情でニタニタと笑った。
「へへー」
「顔がにやけてるよ、お嬢様」
「エヘヘヘー」
「みっともないなぁ。
ミミちゃんのファンが見たら、嘆くぜー」
「エッヘッヘッヘー」
「勝手にしてくれっ、もー!」
「と、とにかくね、わかったんだったら、このt値の意味、ちょっと説明してみてよ、ミミちゃん」
「いいわよ」
とミミちゃんは気軽に引き受け、伴ちゃんの書いた式を指差しながら、
「このt値ってのはァ、分子が標本平均と基準値との距離でェ、分母が標準誤差なんだからァ、標本平均が基準値から離れれば離れるほど、それから標準誤差が小さければ小さいほど、大きな値になっちゃうしィ、そーすっと、さっき伴ちゃんが言ったみたいにィ、母平均は基準値と違うって確率も高くなっちゃうからァ、結局、t値と対立仮説が正しい確率は正比例しちゃうってわけでしょ?」
「おーっ!!」と、僕と伴ちゃんは口を揃えて叫んだ。
「す、すごい!
り、理解しちゃってる!」
と、伴ちゃんは小さな目を思いっきり見開いて驚いた。
「はっきり言って、感動したぜ、わたしはっ!」
と僕も感嘆の声を上げ、伴ちゃんと肩を叩き合って喜びを分かち合いながら、
「よかったなぁ、伴ちゃん、キミの長い間の苦労がとうとう報われたんだ、日本の未来は明るい!」
「あ、ありがとう、みんな、みんな友則のお陰だよ、うっ、うっ……」
「馬鹿、泣くやつがあるかっ!
正義は必ず勝つんだ、見たまえ、あの赤い夕日を……!」
「カラスが、『アホー、アホー!』って鳴いてるわよ、二人とも」
と、シラケ顔のミミちゃんが侮蔑の眼差しを僕等に送りながら言った。
「いやー、ノリますなぁ、伴ちゃんも」
「友則がノセるんだもんね、僕、そんなつもりなかったのに……」
「自分から、喜んでやってたくせに」
「それにしてもすごいね、ミミちゃん。
完璧に正解だよ、今の説明」
「まーね、あたしだって、ちょっと本気出せばこんなもんよ。
ちょろいちょろい、統計学なんて。
相対性理論だって量子力学だって、ドンと来いよ!」
「それじゃあ、この後で、相対論の話もしようか?」伴ちゃん、急に顔を輝かせて身を乗り出し、「いやあ、嬉しいなあ、ミミちゃんがそんなに……」
「あら?変よ、変よ!?
急に耳が……、聞こえない、聞こえないわ、伴ちゃんの声が……!」
「クサイ芝居はやめて、『そんな話は聞きたくない』って、はっきり言ったらどーだい、ミミちゃん?」
と、僕は言ってやった。
「ハイッ、そんな話は聞きたくありません、四条先生!」
「は、はっきり言ってくれるなあ、ほんとに……」
と、伴ちゃんはがっかりした表情になったけど、すぐに気を取り直し、
「ま、それでね、統計学の話なんだけど、t値について別の見方をするとね、分子の標本平均と基準値の差ってのは、母平均が基準値と違っていることを表す意味のある値、つまりシグナルで、分母の標準誤差ってのは、標本平均に関する誤差の大きさを表す意味のない値、つまりノイズだって考えられるから……」
と言って、伴ちゃんは次の式を書いた。
「……とも言えるんだって」
「エスエヌヒって、何?」と、ミミちゃんが不思議そうに尋ねた。
「僕もよく知らないんだよ、実は。
何でも、ステレオマニアかなんかがよく使う言葉らしいんだけど……」
「オーディオマニアって言ってくれよ、伴ちゃん。
S/N比ってのはね、オーディオ機器の性能を表す指標の1つで、その機器が出力するシグナルとノイズの比のことさ。
S/N比が大きいほど、性能がいいんだよ」
「ヘェー、さっすがギタークラブ!
友則君も、やっぱオーディオマニアなわけ?」
「とんでもない、僕は単なる音楽マニアさ。
ステレオをバカスカ買うよーなお金はないし、だいいち、音楽は聴くよりもやる方が好きだからね」
「友則君、ギターも歌も上手だもんね。
あたしも、楽器までとは言わないから、せめて歌でも上手に歌えたらなァー」
「でも、ミミちゃんって、けっこう歌うまいじゃない?」と、伴ちゃんが横から口を出し、「ミミちゃんの歌って、何となく性格が出てて、素直で好きだよ」
「まあ、やだわ伴ちゃんったら、そんな……」と、ミミちゃんは恥ずかしげに微笑み、「そんな嬉しーこと、もっと言ってよ」
「えーと、えーと、そ、それでね、1から対立仮説の正しい確率を引いた値が、帰無仮説の正しい確率になるから、t値は対立仮説の正しい確率とは正比例的な関係があって、帰無仮説とは反比例的な関係があることになるよね」
「フウーン、それは嬉しーことじゃないけど、まァいいわ。それで?」
「その関係は、厳密に言うと正比例でも反比例でもなく、こんな感じなんだよ」
と言うと、伴ちゃんは次のようなグラフを描いた。
「……とね、指数間数的なグラフになるんだよね」
「わーい、わーい、見ーつけたァー、間違い見つけちゃったァ!」
突然、ミミちゃんが鬼の首でも取ったような歓声を上げた。
「え!?
な、何が?」
「そのグラフに間違いがあるもんねー、あたし、見つけちゃったもん」
「ど、どこに……?」
「教えて欲しーかね、ン?」と、横柄な態度のミミちゃん。
「はい、小山内先生、ぜひ……」と、卑屈な態度の伴ちゃん。
「よろしい、キミのその卑屈な態度に免じて、特別に教えてしんぜよー」と言うと、ミミちゃんは伴ちゃんが描いたグラフを指差しながら、「ほら、ここ。対立仮説が正しい確率を1−Pとして、点線で描いて、帰無仮説が正しい確率の方をPとして、実線にしちゃったでしょ。
反対でしょ、これ?」
「あ、なんだ、これのこと?
よかったぁ、これはこれでいいんだよ、実は」
と、伴ちゃんは胸をなで下ろした。
「え!?
どーしてェ?
だって今までの話じゃ、対立仮説の方が主役だったじゃない」
「ごめんね。
また後で説明するつもりだったんだけど、統計学では、普通は帰無仮説が正しい確率を問題にして、こっちの方をP値って呼ぶんだよ」
「えーっ!?
そんなァー……、そんな馬鹿なことってありィ?
それじゃ、対立仮説の立場はどーなるのよ、一体。
この寒空に空きっ腹抱えて路頭に迷うなんて、可哀相だと思わないの?」
「それもやっぱり、ひねくれた数学者の陰謀なんだな、伴ちゃん?」と、僕。
「陰謀ってわけじゃないけど、ま、簡単に言っちゃえば、帰無仮説の正しい確率の方が、計算しやすいからなんだよ」
「そんなアホらしー理由なのォ?
そんな些細なことで主役の座を奪われるなんて、いっくら人のいい対立仮説だって絶対納得できないわ、断固闘うべきよ!」
「あ、あのね、ミミちゃん、これは、その、闘ってどうにかなるってもんじゃないんだけど……」
「あっまーいっ!
それが帰無仮説の思うツボ、そーゆー優柔不断な態度が統計学をつけ上らせるのよ!
さ、伴ちゃん、対立仮説の顔が立つよーに、尋常に説明してもらおーじゃないの。
どーして帰無仮説の方が計算しやすいわけ?」
「それはね、仮説が正しい確率を計算するためには、母平均の値をはっきりと指定する必要があるからだよ。
それが決まらなくちゃあ、t値が計算できないもんね」
「どーしてt値が計算できないの?」
「さっきのこの式では……」と、伴ちゃんは前に書いたt値の定義式の分子を指差し、「標本平均から基準値を引いたけど、これ、本当は標本平均から母平均を引くんだよね。
ただ、帰無仮説が正しいとすると、母平均と基準値が等しくなるから、実質的には基準値を引くことになっちゃうんだよ」
「じゃ、対立仮説が正しいとした時の母平均をその式に代入すれば、対立仮説が正しい確率を計算できるんじゃない?」
「うん、それはそのとおりなんだけど、対立仮説ってのは母平均が基準値と違ってるって仮説だから、母平均がどんな値なのか、はっきりとは指定できないんだよ。
だって、基準値以外の値だったら、どんな値だっていいんだからね」
「あ、そーか、なるほど」と僕はうなずいて、「だから、母平均が基準値と等しいと仮定してt値を計算し、その値から、帰無仮説が正しい確率を計算するしかないってわけか」
「うん、そうなんだよ。
そしてその確率をP値として、対立仮説が正しい確率は、1−Pとして計算するんだよ。
……どう、ミミちゃん、これで納得できた?」
「……ん、何とかね。
でも、やっぱ対立仮説ってなんか可哀相。
あたし、同情しちゃうわ」
とミミちゃんがまだ不満顔なので、僕は尋ねてみた。
「随分、対立仮説に肩入れしちゃってるねぇ。
親戚に、そんな名前の人でもいるんじゃないのかい?」
「別にィ。
ただ、何となく帰無仮説って気に入んないのよね。
なんかこう、ニヒルで、やったら二枚目ぶってる感じでしょー」
「そーかなぁ。
ミミちゃん、帰無と虚無をゴッチャにしてんじゃないのかい?」
「かもね。
とにかく、あたし、そーゆーのって嫌いなの。
カッコーなんてどーだっていーから、もっとこう、あったかくて、人間味があって、可哀相なくらい一生懸命生きてる人が好きなのよねー」
「例えば、誰かさんのようなって言いたいんだろ?」
「やっぱ、わかる?」などと言いながら、ミミちゃんは伴ちゃんに茶目っぽい視線を送った。
「おーおー、言ってくれちゃってぇ、このぉー。
全くやってられんね、こっちゃあ、まだ独り者なんだぜー」
「あたしみたいな、人を見る目を持った女なんて、そーそーいるもんじゃないもんねー」
「人を見る目を持った女ってより、物好きな女だろ?」
「どっちだっていーわよ、別に」
ミミちゃんは一向に怒った様子もなく、「いいじゃ〜ないの〜、幸せ〜なーらば〜」と、佐良直美の古い古い歌を口ずさみ、余裕たっぷりの微笑みを浮かべた。
「くっそーっ、どーだろーねぇ、余裕シャクシャクのこの態度!
ちっくしょー、僕は伴ちゃんみたいに、簡単には妥協せんぞっ!」
「やせ我慢見え見えの、明らかな捨てゼリフねー、可哀相に。
ま、理想を捨てないで、気長に探すのね。
人生八十年、まだまだ先は長い!」
「ところで、このt値だけどね、この値を考え出したのは、実はフィッシャーじゃなくて、ゴゼットって人なんだよ。 その人、ダブリンのビール会社の技師だったんだけど、スチューデントってペンネームで、t値に関する論文を発表していて、その論文中では、t値じゃなくてz値って呼んでいたんだよ」
と、伴ちゃんが話題を人生論から統計学に戻した。
「z値?
それって、何か特別の意味でもある名前なのかい?」と、僕。
「統計学ではね、統計量のことを一般にzで表すことがあるんだよ。
だけど、後になってフィッシャーがその論文を見つけて、z値の重要性を見抜いてね。
それで、ステューデントの功績を称えるために、彼の頭文字を取って『t値』って名付けたんだよ」
「頭文字?
けど伴ちゃん、studentの頭文字なら、tじゃなくてsだぜ」
「うん、sはね、標準偏差の記号として、もう使われちゃってたから、二番目のtにしたらしいんだよ」
「ダジャレが好きだったのね、そのフィッシャーって人」
と、ミミちゃんがさもありなんという表情で言ったので、僕は尋ねてみた。
「ダジャレが好き……?
なんで?」
「だって、studentにteachするなんて、ダジャレもいーとこよ。
友則君も顔負けねー」
「うーん、これはなかなかのもんじゃ。
これは、ダジャレ本家たるわたしも、あえて認めてあげようじゃないか。
免許皆伝も間近じゃなぁ、キミィ」
「うれしゅうございますわ、荻須家元。
これで、池坊主流の将来は安泰でございますわね?」
「むむ、あとはただ花瓶を割らず、水をこぼさず、剣山で着物を破きさえしなければ、究極の奥義が極められるじゃろうて」
「な、な、なんと!
ああ、私はまだまだ未熟者でございました、お恥ずかしゅうございますわ、お師匠様ァ〜!」
「あ、あのー、お取り込み中、悪いんだけど……」と、伴ちゃんがおずおずとした口調で、「ステューデントにt値するって、どういう意味?」
伴ちゃんのポケーッとした様子に、僕はミミちゃんと顔を見合わせ、肩をすくめて言った。
「しょーがないさ、ミミちゃん、伴ちゃんには内容が高度すぎたんだ。
さあ、それじゃあ次に進もうか、伴ちゃん」
「え?
でも、僕、まだ、意味がわからないんだけど……」
「いーのよ、いーのよ、もー。
いつかあたしがゆっくり教えてあげるから、気をらくーにしましょーね」
と、子供をあやすような口調のミミちゃんの言葉に、伴ちゃんは割り切れない表情でつぶやいた。
「それなら、まあいいけど……、でも、t値するって、ほんとに、一体……?」