玄関小説とエッセイの部屋小説コーナー僕達の青春ドラマ

僕等は別荘の周囲をぐるっと調査しながらまた玄関に戻って来て、そのままゾロゾロとホールに入った。 すると、すでに昼食の用意が整っているということなので、そこで青年探偵団は解散となった。

やがて昼食となり、昨日と同じように別荘の人達も警察の人達も食事を取り、時間だけが淡々とすぎていった。 僕等も推理遊びにはいい加減あきてしまって、みんな思い思いの方法で暇をつぶしていた。 ミミちゃんはステレオの前に陣取って、音楽にはまるで無知な伴ちゃんをいっぱしの音楽通にしようと、懸命の教育をしていた。 そのせいか、正氏はターゲットを雪子さんに変えて、あの手この手のアタックをしていたけど、警察に協力していることの多い雪子さんは、うまく警察を盾に使ってするりするりと逃げていた。

裕美さんは、兄がだめならこのあたしがとばかりに、盛んに耕一さんにモーションをかけて、何も知らないらしい耕一さんを戸惑わせていた。 耕平氏と笹岡氏は、経営がどうの、業務管理がこうのと難しげな顔で話し込んでおり、静さんと笹岡氏の妻の和子さんは若かりし頃の思い出話に花を咲かせ、コックの大野さんと女中の白石さんはただひたすら忙しそうに働いていた。

僕はできるだけ雪子さんの近くにいようとしたけど、雪子さんは警察に協力していることが多い上、この盗難騒ぎのせいで、雪子さんの恋人というお芝居も中途半端になってしまった感じで、何となく間が抜けたようにあたりをウロウロしたり、手持ち無沙汰でひとり物思いに耽ったりしていた。

午後4時頃になって、とうとう藤島刑事もあきらめたようで、別荘の捜査を打ち切ることになった。 そのことを言い出した時の彼の表情には、二日がかりの捜査にもかかわらず、浮世絵も証拠らしきものも何ひとつ発見できなかった悔しさがありありとにじみ出ていた。 最後に別荘の人全員の住所氏名と連絡先を確認すると、藤島刑事は警官の一団を引き連れて別荘から出て行き、ようやく僕等は放免された。

すると、まるで警察が出て行くのを待っていたかのように、大きなアタッシュケースをかかえた中川さんが別荘に帰って来た──後で中川さんに聞いたところ、警察が出て行くのを本当に外で待っていたそうなんだ。 彼は小走りに僕等のところにやって来ると、

「ちょっと悪いけど、みんな一緒に来てくれないか」

と言って伴ちゃんの腕をつかむなり、返事も待たずに管理室に向かった。 僕とミミちゃんは、わけがわからないながらも、仕方なくその後に従った。

管理室に入ると、中川さんはいきなり伴ちゃんの手を両手で握りしめ、感激で声を詰まらせながら言った。

「あ、ありがとう、四条君! 君の、君の言ったとおりだった! 何と言ってお礼を言ったらいいのか……」
「そ、そうですか、それはよかったですね、ほんとに……」

男らしい中川さんが顔を紅潮させ、うっすらと嬉し涙さえ浮かべながら、恥ずかしげに微笑んでいる伴ちゃんの手を握りしめている光景は、わけもわからないのになぜかやたらと感動的だ。

「それで、これから後始末をしようと思うんだが、ぜひ、君にも一緒に来てもらいたいんだ!」
「そ、そりゃあ構わないですけど、僕、まだ、わかんないことだらけで……」
「いいんだ、僕には、もう全て理解できているつもりだから」

ここで急に、中川さんがミミちゃんの方を振り向き、

「小山内さん、ちょっと四条君を借りるよ。 夕食までには必ず返すから」
「えー、えー、そりゃもーお構いなく、どーぞ、どーぞ」

ミミちゃんの返事を聞くが早いか、中川さんは伴ちゃんを引っぱって、疾風のように部屋から出て行ってしまった。 僕等以外には誰もいないのに、お芝居がくせになってしまったのか、中川さんはわざわざミミちゃんに許可を取り、ミミちゃんもそれに応じているのが何となく笑えた。

「どうやら、伴ちゃんが言ってたこと、うまくいったみたいだね」

中川さんが出て行ったドアをぼんやり眺めながら、誰にともなくつぶやくと、ミミちゃんがまるで自分のことのように言い放った。

「あったり前よっ、伴ちゃん、天才だもん! 監督のあたしには、こーゆーストーリー展開になるだろーって、ちゃんとわかってたわ!」