・「予言がはずれるとき」L.フェスティンガー/H.W.リーケン/S.シャクター共著、水野博介訳、勁草書房、1995年
認知的不協和理論を提唱した社会心理学者レオン・フェスティンガー等の、古典的名著です。本書は、認知的不協和理論という心理学分野の有名な理論を、カルト教団に適用して実証しようとした本です。
「近い将来に人類の終末が訪れ、選ばれた人だけが救済される」という予言は、ユダヤ教やキリスト教や仏教を始めとして多くの宗教に共通するものです。この予言を時代に合った内容に焼き直し、人類の終末の様子とその日付を具体的に予言して信者を集めるカルト教団が、ユダヤ教以後、現在までたびたび現れてきました。
そして今現在、相変わらず人類が存在しているという事実が明白に示しているように、それらの終末予言は全て完全に外れてきました。こいう場合、普通なら教団の教祖に対する信者達の信頼が失われ、教団は壊滅すると考えられます。ところが不思議なことに、予言が外れると信者達の信仰と団結力がかえって高まり、布教活動を活発に行なって教団が大きくなるという現象が数多く起きています。
この不可思議な現象は、認知的不協和理論によって合理的に説明することができます。この理論を提唱したフェスティンガー達は、当時のアメリカで、大洪水による世界の終末と、選ばれた者のUFOによる救済を、具体的な日付を挙げて予言していたUFO系カルト教団に身分を隠して潜入しました。そして参与観察という心理学的な手法を使って、予言が外れた結果、主要な信者達がかえって信仰と団結力を高め、布教活動を活発化していく様子を観察し、それを認知的不協和理論で説明しようとしたのが本書です。
本書は心理学研究結果の優れた報告書というだけでなく、カルト教団内部のリアルで臨場感溢れるドキュメンタリーにもなっています。
この認知的不協和理論は、カルト教団だけでなく似非科学にも当てはめられる理論なので、似非科学が何かと問題になっている現在、この本が参考になると思って紹介することにしました。似非科学者と論争したり、その信奉者を説得しようとしてやたらと苦労した経験のある人は、本書の冒頭の次の文章に大いに共感すると思います。
「堅固な信念を持っている人の心を変えるのはむずかしい。
もし、私はあなたとは意見が違うなどと言おうものなら、その人はそっぽを向いてしまうであろう。その人に事実や数字を示したとしても、その出処に疑問を呈するだろう。理論に訴えたとしても、その人は肝心な点を理解できないことであろう。
私達は誰でも、がんこな信念を変えさせようとして、無駄な骨折りをした経験があるものだ」
本書に登場するカルト教団の教祖と信者達の関係は、似非科学の提唱者とその信奉者達の関係とそっくりです。これらの集団はどちらも「新しい知識や事実を受け入れず、自己欺瞞によって間違いを許容し、自らの正しさを強調するために、さらに間違いを再生産する」という特徴を持っていて、この特徴は認知的不協和理論でうまく説明することができます。
スピリチュアリズム、オカルティズム、UFO、カルト教団等々に興味のある方だけでなく、疑似科学や似非科学に興味のある方——もしくはそれらに悩まされている方にも、本書をお勧めします。v(^_-)
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