玄関小説とエッセイの部屋エッセイコーナーお宮さん騒動顛末記

【第2章 問題点】

お宮さん騒動に首を突っ込むことにした僕は、まず氏子総代さんと宮司さんから詳しい話を聞きました。 そしてこの騒動には次のような重大な問題点があることを理解しました。

1.特定の宗教法人が町有地を(長期間?)無断・無料で使用している!

これは、明らかに政教分離の原則(憲法20条と89条で規定)に反しています。

2.特定の宗教法人が私有地を(長期間?)無断・無料で使用している!

これは1番目ほど重大な問題ではないものの、相手によっては重大な問題になる可能性があります。

さらに僕は、氏子総代さんも宮司さんも気付いていなかった問題点に気付きました。 神社の境内は玉垣に囲まれていて、その前に短い参道があります。そしてその参道の左右に小さな公園があり、滑り台などの遊具が設置されていました。 その公園は神社の周囲にあるS団地(仮名)に付属した公園であり、町が管理していると誰もが思っていました。 ところが登記簿謄本によると、その公園の土地は神社の所有地であり町有地ではなかったのです。

そのため次のような問題が発生します。

3.神社の所有地に公園があるため神社に管理責任がある!

実は、公園の遊具はかなり古くて傷んでいるため、団地の住人から「子供が遊具で怪我をするといけないので、町に修理してもらいたい」という意見が出ていることを区長になる前から知っていました。 そこで区長になった時、早急に町に修理を依頼しようと考えていました。 しかし公園が神社の所有地にあるとなると、当然、神社に管理責任があり、もし遊具で子供が怪我をした場合、神社が損害賠償等の対応をしなければなりません。 これはけっこう重大な問題です。

1番目の町有地の問題点に対する対応策としては、とりあえず次のようなものが考えられました。

1-1.神社と町との間で土地の賃貸契約を結び、賃貸料を支払う。

ことによると、町有地を使用し始めた時期まで遡って賃貸料を支払う必要があるかもしれない。

1-2.町有地を神社が買い取る。

1-3.神社の境内は玉垣で囲まれているが、その玉垣の範囲を神社の土地の範囲だけに作り直す。

しかし地元の神社の財政状態(年間収入50万円程度)を考えると、これらの対応策はどれも不可能に近い難事でしたから、氏子総代さんが困ってしまったのも無理はありません。

2番目の私有地の問題点については、相手が地家の人だったので何とかなると考えられましたし、既に相手が協力を約束してくれていました。

3番目の公園の問題点については、とりあえず次のような対応策が考えられました。

3-1.公園の遊具を撤去し、事故の危険性を減らす。

3-2.公園部分の土地を神社から町に寄付して町有の公園にし、遊具を修理してもらう。

これらはどちらも宮司さんと氏子総代さんが納得してくれれば、実現できそうな対応策と思われました。

ところがその後、この公園問題は思ったよりも複雑怪奇な問題だということがわかり、対応に苦慮することになります。 そして幸か不幸か、この公園問題こそがお宮さん騒動のキーポイントであり、この問題の解決がそのままお宮さん騒動全体の解決につながることになります。

お宮さん騒動の問題点に気付いた時、僕はどこかでこれと同じような問題が起こっていたことを思い出し、図書館で過去の新聞を調べてみました。 この頃はまだインターネットが発達していなかったので、図書館で調べるしかなかったのです。 その結果、やはり宗教法人法の一部改正のせいか、あちこちで同じような問題が起こっていて、裁判沙汰になったところまであることがわかりました。

氏子総代さんは頭が痛い問題だとは思っていても、裁判沙汰になるほどの重大問題だとは思っていませんでした。 しかし地家の人達だけ住んでいる地区ならあまり問題にはなりませんが、僕の地区のように地家の人達と新興住宅の人達が混在しているところでは、このことが公になれば問題になる可能性が高いと思われました。 何しろ新興住宅の人達は地元の神社の氏子ではなく、別の宗教を信奉している人もいれば、第二次世界大戦前の国家神道にうんざりし、こういった政教一致の名残に拒否反応を示す人もいます。

そこで僕はそのことを氏子総代さんに説明し、とりあえず関係者に箝口令を敷いてもらいました。 そして区長である僕は表立って活動できないので、隠密裏に行動し、表向きは全て氏子総代さんの活動成果にすることにしました。 当時の僕は天下御免の”悪徳窓際幽霊社員(^^;)”でしたから、この隠密行動はいかにも僕に相応しいやり方でした。

氏子総代さんと宮司さんから詳しい話を聞いた僕は、次に神社の土地の所有権の推移と、地区の歴史を徹底的に調べることにしました。 そのために歴代の氏子総代さんと歴代の区長さん、そして地区の長老から話を聞き、団地を作った不動産屋と建設業者を探し出して昔の資料を調べてもらい、町役場と県の法務局に通って資料を調べ、図書館の郷土資料室にも通って古文書と古地図を調べ、ありとあらゆる手づるを使い、残された資料と痕跡をたどって地区と神社の歴史を遡れるだけ遡って調査しました。

それはちょうどアリバイ崩しテーマの推理小説で、犯人のアリバイを崩すために探偵が足を使って徹底的な調査をすることに似ていて、僕はその調査をけっこう楽しんでいました。 元々物好きで区長を引き受け、物好きでこの騒動に首を突っ込むことにしたのですから、何事も楽しんでやった方がいいに決まっています。 それに地味で面白味のない自治会の仕事や町の仕事よりも、こういった込み入った問題の謎を探る方がよっぽと面白かったりしたのです。

その執念と邪念(^^;)の調査の結果、江戸時代初期から現代までの地区の歴史と神社の変遷がわかり、お宮さん騒動の原因をほぼ解明することができました。