○昭和50年代前半(1970年代後半)
昭和50年代前半つまり1970年代後半になりますと、マンガのマスプロ産業化はますます加速されます。
マンガ雑誌の発行部数は軒並み100万部を越え、マンガ単行本のベストセラーは1000万部を突破するという、出版界の常識では考えられないようなことが当然となっていきます。
何しろ普通の書籍では10万部以上売れればベストセラー、100万部売れれば社会現象とまで言われた時代ですから、マンガの量がいかに凄いかわかると思います。
この頃には子供マンガのタブーはことごとく打ち破られ、大人マンガと子供マンガの区別が曖昧になっていました。
まさに「タブーなき時代」と言えるでしょう。
また”花の24年組(萩尾望都、大島弓子、竹宮恵子、山岸涼子、青池保子など、昭和24年に生まれた、個性あふれる女流マンガ家達の通称)”の大進撃により、遅まきながら少女マンガ界も大きく変貌しつつありました。
僕はちょうど社会に出たばかりで、右も左もわからない時期でしたし、マンガ家になる夢を捨てた時期でもありましたから、あまりマンガを読めなかった時代です。
この頃の作品としては、過去の思い出を語りながら、次第に近代の歴史の動きを描いた作品が増えていく途上の自伝的作品、手塚治虫の「紙の砦」、本質的には短編の名手であるこの作者のSF異色短編シリーズ、藤子不二雄の「ポストの中の明日」や「パラレル同窓会」や「やすらぎの館」など一連の作品、もうひとりの作者である藤子不二雄Aが「長い道」という少年小説をマンガ化した、藤子不二雄の「少年時代」、
恐怖物から180度方向転換してギャグ物を描き出したので驚いたけど、よく読むと陰画に対する陽画の関係であったギャグマンガ、楳図かずおの「まことちゃん」、相変わらず野球マンガで頑張っていた水島新司の「一球さん」、ギャグっぽさは減ったけど、主人公のけなげさが良かった小山ゆうの「がんばれ元気」、ようやく作風が落ちついてきて、シリアスとコメディの中間的な作品となった長寿時代劇、ジョージ秋山の「浮浪雲」、
山上たつひこの名前をもじったペンネームでデビューし、個性あふれる登場人物の活躍で長寿となった警官ギャグマンガ、山止たつひこ(後に秋本治と改名)の「こちら葛飾区亀有公園前派出所」、個性的な悪役を描かせたら昔から抜群だった作者が、悪役そのものを主人公にしたピカネスクマンガ、手塚治虫の「MW(ムウ)」、オバケやモノノケを題材にしながら、しみじみと心に残るすごく好きな短編シリーズ、手塚治虫の「雨ふり小僧」や「大将軍森へいく」や「てんてけマーチ」など一連の作品、
少女マンガとしては初の本格的なSFと言ってよく、作者独特の詩情もあるSF少女マンガの傑作、萩尾望都の「11人いる」、コメディのセンスもなかなかのものを感じさせるファンタジーマンガ、萩尾望都の「精霊狩り」など一連の作品、原作もすごく好きだったし、マンガ化されたものも珍しく気に入ったSFマンガ、光瀬龍原作・萩尾望都絵の「百億の昼と千億の夜」、少年愛を真正面から取り上げて、美少年物のブームを作るきっかけとなった竹宮恵子の「風と木の詩」、
やたらと華麗で恋愛物の要素も多かった少女スポ根テニスマンガ、山本鈴美香の「エースをねらえ!」、萩尾望都の諸作に続く女流マンガ家によるSF少女マンガ、竹宮恵子の「地球へ…」、演劇という珍しい世界をテーマとして、延々と続いている長寿少女マンガ、美内すずえの「ガラスの仮面」、乙女チックな文学的少女マンガでノリまくっていた、大島弓子の「いちご物語」や「雨の音がきこえる」など一連の作品、そしてそれにファンタジー風味を加えてヒットした大島弓子の「綿の国星シリーズ」、
大正時代を舞台とした「おはなはん」のような少女マンガ、大和和紀の「はいからさんが通る」、少々明朗快活すぎて、へそ曲がりの僕はお尻がこそばゆくなった学園少女マンガ、庄司陽子の「生徒諸君!」、男性作家が描いた少女マンガで、説定のおかしさと上品なお色気が魅力の弓月光の「ボクの初体験」、一言で言えば「足長おじさん」の少女マンガ版だけど、途中から作者がノってしまったので、なかなか力作になった水木杏子原作・いがらしゆみこ絵の「キャンディ・キャンディ」、
『COM』出身のマンガ家で、『COM』の頃の繊細な作品とは違って、荒々しい男の世界を描いた漁師マンガ、青柳裕介の「土佐の一本釣り」、同じく『COM』出身のマンガ家で、最初は万年選外佳作だったけど、その頃から青春物を得意としていた長谷川法世の「博多っ子純情」、クサヤの干物のような独特の味わいがあり、一度引き込まれると病みつきになってしまう、しみじみとした艶笑大人マンガ、畑中純の「まんだら屋の良太」、宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」からヒントを得たSFファンタジーマンガ、松本零士の「銀河鉄道999」、
最初は軽いノリで始めたのに、力が入るにしたがってだんだんとシリアスになっていったラブコメディ、柳沢きみおの「翔んだカップル」、ポップアート的な絵と可愛い美少女が抜群にうまい作者の、まだギャグタッチの絵だった頃の野球ギャグマンガ、江口寿史の「すすめ!パイレーツ」、劇画タッチながら、吉本興行のドタバタ喜劇を思わせる極道マンガ、政岡としやの「ダボシャツの天」、
僕はこんなマンガが描きたかったなぁ、スラップスティックの間に時折繊細な詩情を感じさせるさわやかな青春コメディ、あすなひろしの「青い空を白い雲がかけてった」、女流作家が描いた少年マンガなのに、やたらとオタク好みの美少女が登場するSF学園コメディ、高橋留美子の「うる星やつら」、同人誌から始まり、人気が出るとともに商業誌に連載されるようになったカルト的SFマンガ、聖悠紀の「超人ロック」、
久々に出現した4コママンガの名手で、4コママンガブームの火付役となった野球パロディマンガ、いしいひさいちの「がんばれタブチくん」、好きだなぁこーゆーの、一見清純そーでいて、マンガ史上希にみる淫乱助平女が主役のハチャメチャギャグマンガ、吾妻ひでおの「やけくそ天使」、この作者は一体どこまでギャグを押し進めるんだろうか?と不安になったほどのナンセンスギャグマンガ、吾妻ひでおの「不条理日記」、
「ルパン三世」をリアルにした感じの、タフで不敵な野郎が主人公のSFマンガ、寺沢武一の「コブラ」、独特のギャグセンスと可愛い美少女が良かった、鴨川つばめの「マカロニほうれん荘」、少年愛物のパロディを少女雑誌に男性作家が描き、徹底した異常さで楽しませてくれる長寿ギャグマンガ、魔夜峰央の「パタリロ」、大阪の下町を舞台に、「がめつい奴」の名子役・中山千夏を髣髴とさせるような、バイタリティあふれる少女が大活躍する大阪人情コメディ、はるき悦巳の「じゃりん子チエ」、登場人物の成長と共に、学園コメディからスポ根コメディに変わっていった小林まことの「1・2の三四郎」、
作者の名前も作品の内容もまるで少年マンガのようだけど、れっきとした女流作家が描いた少女マンガ、河あきらの「いらかの波」、少女マンガが多様化する中で正統派少女マンガを貫く、くらもちふさこの「おしゃべり階段」、やたらめったらカワユイ動物達が登場する4コマ少女マンガ、ところはつえの「にゃんころりん」、可愛い少年を主人公としたオーソドックスな4コママンガ、いまいかおるの「フーちゃん」、
特徴のある絵とテーマで不思議な魅力を持つSF的伝奇マンガ、諸星大二郎の「妖怪ハンターシリーズ」と「暗黒神話」と「孔子暗黒伝」と「徐福伝説」、端正な絵と綿密なプロットで正統派SFマンガを描き続ける、星野之宣の「はるかなる朝」や「巨人たちの伝説」など一連の作品、三国志ブームを巻き起こした雄大無比な戦国絵巻、横山光輝の「三国志」、最初はナンセンスギャグで始まり、作品の勢いに引きずられて次第にシリアスになっていった、いしかわじゅんの「憂国」、
昭和30年代の下町の生活を郷愁を込めて描いたほのぼの郷愁マンガ、西岸良平の「夕焼けの詩」、”ドジさま”の愛称でマンガ仲間から親しまれている作者の、美少年チックな沖田総司物、木原としえの「天まであがれ」、線の細い硬質な絵で針金みたいな少女を描き、後年どんどんと妖しく恐い線になっていく前の代表作、山岸涼子の「アラベスク」、昭和新山にかかわった男の半生を重厚なタッチで描く歴史マンガ、手塚治虫の「火の山」……なんか、この時期は少女マンガが多いなぁ〜。(^^ゞ