玄関マンガと映画の部屋作品紹介コーナーお気に入りの映画

題名をクリックしても、残念ながら映画は観れません。(^^;)

○「レナードの朝(Awakenings)」(ペニー・マーシャル監督、アメリカ、1990年)

医学博士のオリバー・サックスが自身の体験に基づいて書いた優れたノンフィクションを、女流監督ペニー・マーシャルが映画化したものです。 子供の頃に植物人間状態となってしまった難病患者が、新薬治療によって短期間だけ意識を回復し、失われた時間を取り戻そうとするという、重く深刻なテーマを含んだ話ですが、女流監督らしいきめ細かい演出と優しく包み込むような暖かい視線によって、しみじみと心に残る秀作となっています。

この作品では、植物人間状態から回復する患者という難役を名優ロバート・デ・ニーロが真に迫った演技で見事にこなしており、人付き合いが苦手で、研究に没頭すると周囲のことが全く見えなくなってしまう、愛すべき研究者タイプのセイヤー博士(モデルはオリバー・サックス博士)を、芸達者なロビン・ウィリアムズがデ・ニーロに劣らない演技で好演しています。

ロビンは「今を生きる」、「ガープの世界」、「フック」、「ミセス・ダウト」、そして助演男優賞を受賞した近作「グッド・ウィル・ハンティング」等の作品でも、”千の顔を持つ男”と呼ばれる本領をいかんなく発揮していますが、僕が最初に彼を見たのがこの作品であったことと、個人的にセイヤー博士のような研究者タイプの人間を偏愛しているせいで、今のところこのセイヤー博士役が彼のベスト演技だと思っています。

○「パリ、テキサス(Paris, Texas)」(ヴィム・ヴェンダース監督、西ドイツ・フランス、1984年)

ニュー・ジャーマン・シネマの第一人者と言われるヴェンダース監督が、脚本にアメリカ演劇界の俊英サム・シェパードを迎えて撮ったロード・ムービーの秀作です。 ヴェンダース監督はこの作品で世界的にその名を知られるようになりました。

この作品は、突然蒸発した妻を探して、息子と一緒に車の旅を続ける男の道中を描いたもので、サム・シェパードをはじめ、スタッフの中にアメリカ人が何人もいるせいか、「ベルリン・天使の詩」(これにはアメリカの映画俳優ピーター・フォーク役で、ピーター・フォーク自身が出ています!(^_-))などと比べますと、非常にアメリカ的な作品となっています。

物語の終盤、待ちに待ったという感じで登場するナスターシャ・キンスキーの、ミステリアスな美貌が印象的です。 キンスキーは近作「ターミナル・ペロシティ」では女性諜報部員に扮していましたが、彼女は”ミステリアスな美女”という役柄がぴったりな気がします。

○「ライトスタッフ(The Right Stuff)」(フィリップ・カウフマン監督、アメリカ、1983年)

トム・ウルフのベストセラー・ノンフィクションを映画化した、航空ファン・宇宙ファン必見の傑作です。 史上初めて音速を超えた孤高のテストパイロット、チャック・イエガーと、アメリカ有人宇宙飛行計画に選ばれた宇宙飛行士7人の姿とを対比させながら、未知のフロンティアに挑戦する者に求められる”ラストスタッフ(正しい資質)”をドラマチックに描いています。

とにかく、西部の英雄を思わせるイエガーがめったやたらとカッコイイ!

演じているのはピュリッツァー賞受賞劇作家兼俳優のサム・シェパードで、彼はそのクセの強い風貌から俳優としては悪役をやることが多いのですが、このイエガー役はぴったりはまっていて思わず憧れてしまいます。 またそのイエガー本人がこの作品のテクニカル・コンサルタントを務めていることや、バーテンダー役で特別出演し、イエガー役のシェパードと話を交わすシーンがあることなどは、航空ファンならずとも興味を引かれることでしょう。

向井万起男氏の傑作エッセイ「君について行こう」中に、向井千秋さんをはじめとするスペースシャトル・コロンビア号の乗務員達が、出発前にこの作品を見て気持ちを高揚させていた、というエピソードが紹介されていますが、それを読んだ時は「さもありなん!」と納得したものです。('')(..)('')(..)

○「ガンジー(Gandhi)」(リチャード・アッテンボロー監督、イギリス・インド、1982年)

インド独立の父にして偉大なる政治家兼哲人兼聖人、”マハトマ(偉大なる魂)”モハンダース・カラムチャンド・ガンディーの生涯を描いた大作です。 この作品でアカデミー主演男優賞を受賞したガンディー役のベン・キングスレーは、その後も「シンドラーのリスト」、「デーヴ」、「スニーカーズ」等で印象的な演技を見せ、僕のお気に入りの俳優の一人になりました。

ガンディー翁は僕の最も尊敬する人物で、その存在を知った中学生の頃から現在まで、大きな影響を与えられ続けています。 今でも何か悩みがある時や迷いがある時、あるいはひどく落ち込んでいる時など、彼の書いた本を読んだりこの映画を見たりしますと、何かしらほっと救われたような清々しい気持ちになることができます。

世界のそこかしこで暴力の嵐が吹き荒れ、武力による正義と権力による圧政が満ち溢れているこの憂鬱な”力の時代”に、腰布をまとい杖をつき、不思議な痩せこけた姿で、大きな眼鏡の奥に暗褐色の優しい瞳を輝かせながら、ガンディー翁は差し招く真実のようにどこか遠い所に立って、世界の人々が追いついてくるのをじっと待っているのです。

○「12人の優しい日本人」(中原俊監督、日本、1991年)

今をときめく劇作家、三谷幸喜の舞台劇を中原俊監督が映画化(脚本・三谷幸喜と東京サンシャインボーイズ)したもので、言わずと知れたシドニー・ルメット監督の名作「12人の怒れる男」のパロディです。 「12人の怒れる男」は、その緊密に構成された完成度の高い内容ゆえに、多くの類似作品とパロディ作品を生み出しています。 この「12人の優しい日本人」は三谷幸喜らしく真っ正面からパロディに挑戦した作品で、あまりにも真正直にパロったため、原作を知っている人にはオチが何となくわかってしまうきらいが無きにしもあらずですが、彼お得意の会話の妙はさすがです。

舞台劇を映画化した作品はたくさんありますが、へそ曲がりな僕としては、「欲望という名の電車」や「ガラスの動物園」などの文芸物よりも、「俺たちは天使じゃない」や「老婆と毒薬」などのブラック・ユーモア的な作品の方がお気に入りで、この「12人の優しい日本人」もそのひとつになりました。

そういえば、マイケル・サットンとアンソニー・フィングルトン作の傑作戯曲で、以前、テアトル・エコーが上演した「正しい殺し方教えます」も、僕のお気に入りのブラック・ユーモア的な舞台劇で、映画化すれば面白いと思うのですが、寡聞ながらこの作品が映画化されたという話は聞いたことがありません。 どなたか、そういった話をご存知ありませんか?

○「12人の怒れる男(12 Angry Men)」(シドニー・ルメット監督、アメリカ、1957年)

殺人事件裁判の陪審員に選ばれた12人の男が、議論を戦わせた末に評決を下すまでを描いた法廷物の傑作です。 映画は12人の陪審員が陪審室に入るところから始まり、物語の進行時間と映画の進行時間とを一致させながら進行していき、彼等が陪審室から出たところで終わります。

限られた場所で限られた数の人間が、緊密に構成された会話を中心にして物語を進めるという、完成度の高い舞台劇を思わせるこの作品は、実は脚本を担当しているレジナルド・ローズが書いたテレビドラマが原作で、それに感激したヘンリー・フォンダが映画化を買って出て、舞台とテレビの演出家だったシドニー・ルメットが監督をしたものです。

シドニー・ルメット監督はこれが映画監督としてのデビュー作品であり、以後、ハリウッド育ちではない”ニューヨーク派”の代表監督として、「オリエント急行殺人事件」、「狼たちの午後」、「ネットワーク」、「評決」などの話題作を発表していきます。

○「ロザンナのために(For Roseanna)」(ポール・ワイランド監督、アメリカ、1998年)

この作品はイタリアを舞台としたアメリカ映画で、出演者のほとんどがイタリア系ですがセリフは英語です。(^^;) スタッフがヨーロッパとアメリカの混成のせいか、映画全体の雰囲気と哀愁を帯びた美しい音楽はヨーロッパ映画を思わせるものがあり、ストーリー的には、貧しい庶民の生活をユーモアとペーソスを交えて暖かく描きつつ、最後に意外などんでん返しが待っているという、まるでアメリカのO・ヘンリーを思わせるものがあります。

主演のジャン・レノは、愛する妻のために残り少ない墓地をやっきになって確保する、単純で不器用ながら心優しいイタリア料理屋のオヤジ役を、ペーソスを含んだコミカルな演技で見事にこなしています。 こういった演技は「レオン」でも見せていましたが、彼にはこんな役柄が似合っているような気がします。

観終わった後、爽やかな笑いとともに思わずホロリとさせられる心温まる作品で、映画の招待券をもらってタダで観たせいもあり、最近一番のお気に入りです。(^^)v

○「世界中がアイ・ラヴ・ユー(Everyone Says I Love You)」(ウディ・アレン監督、アメリカ、1998年)

ウディ・アレンはお気に入りの監督のひとりで、豊かな才能といい、ユニークな個性といい、何となく筒井康隆を連想させるところがあります。 この作品はミュージカル映画のパロディと言うか、ミュージカル映画に対するウディ流のオマージュと言うか、とにかくほんわかと心温まる中にも、ちょっぴり苦みのきいた彼らしい作品です。

出演は「ペリカン文書」のジュリア・ロバーツ、ウディ作品の常連で芸達者なゴールディ・ホーン、「レオン」のナタリー・ポートマン、そしてウディ自身といった豪華な顔ぶれで、ゴールディとウディが相変わらず息の合ったところを見せています。

それにしてもナタリー・ポートマンを使うとは、さすがはウディ・アレン! 彼とチャプリンのロリコンは、映画通の間では有名なんですよね。(^_-)

○「ショアー(Shoah)」(クロード・ランズマン監督、フランス、1985年)

第2次世界大戦中のナチスによるユダヤ人大虐殺を、色々な人の証言によって克明に追跡したドキュメント映画です。 9時間にもおよぶこの一大労作を観終わった後の、胃の腑にこたえる深く重い感動を一体どのように表現すればよいかわかりません。

トマス・キニーリーの原作「シンドラーズ・リスト」を先に読んでいたこともあり、スピルバーグ監督の「シンドラーのリスト」には、何となくいまひとつ不満が残ったのですが、「ショアー」を観てその理由がはっきりわかったような気がします。 冷静な語り口と淡々とした構成の中から、人類の底知れない狂気の記録として是が非でも残しておかなければならないという熱い信念と、人間の愚行と自己欺瞞に対する痛烈な告発が感じられるこの作品を見た後では、「シンドラーのリスト」は、シンドラーという興味深い人物の人間性に依存した、感傷的なカタルシスにすぎないように思えてしまうのです。

もっともこれはエンターテインメント性の強いハリウッド映画と、ドキュメント映画の性格的な違いによるものが大きいですから、公平な比較でないことは十分承知しているつもりですが……。(^^ゞ

この作品は決して万人向きとは言えませんが、歴史や人種差別問題や戦争に興味のある人にはぜひ観て欲しいと思います。 この一大労作を完成させたランズマン監督以下スタッフの方々の、熱意と信念と執念に心からの敬意を表します。

○「アンダーグラウンド(Underground)」(エミール・クストリッツァ監督、フランス・ドイツ・ハンガリー、1995年)

第2次世界大戦から現在に至るユーゴスラビアの複雑な歴史を背景にしたこの映画は、シニカルな笑いとシュールなギャグに満ちたドタバタ喜劇と、深刻な苦悩と深い絶望感を持つシリアスな悲劇とを、猥雑なパワーで強引に混ぜ合わせ、そこにリリカルな詩情とペーソスとをぶち込んでごった煮にしたような、何とも不思議な作品です。 そしてそれにもかかわらず、と言うべきか、だからこそと言うべきか、全体としてユーゴスラビアという国を象徴する壮大な寓話になっていて観る者を圧倒します。

ユーゴスラビア映画ではなく、フランス・ドイツ・ハンガリーの合作映画ですが、出演者やスタッフの中にユーゴスラビア出身の人が多く、作品の底に民族の魂の苦悩の叫びのようなものが感じられます。 作品の最後に「この物語にはまだ終りがない」という象徴的な字幕が出ますが、ユーゴスラビアの魂は現在もまだ血の涙を流し続けています。

こういったスゴイ映画を見た後は、しばらくの間、他の映画を見る気がしなくなってしまいます。