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1979. Re[1978]:記述統計学と推測統計学について 投稿者:杉本典夫 [URL] 投稿日:2024/08/28 (Wed) 11:37:07
>F.Y.Edgeworthさん

この掲示板は、掲示板荒らし対策をある程度はしていますが、昨日(8月27日)、掲示板を荒らされてしまいました。(~_~) そのため掲示板の書き込みを復元するのに、少々手間取ってしまいました。

> >「統計学は応用数学ではなく数学応用学だ」
> これは推測統計が数学の主張を統計手法の利用者の主観によるモデル化と解釈(interpretation)で挟んだものなので,数学の立場からは評価できないという意味でしょうか?
いえ、統計学は科学的研究を行うための数学的な道具のひとつにすぎず、統計学を用いてデータを要約した結果をそのまま盲信するのではなく、その結果を研究現場から得た経験に基づいて科学的に解釈することが大切である、という意味です。
例えば医学分野の研究では、非常に珍しい症例を見つけたら、その症例について詳細に報告する症例報告だけで意義のある論文になります。この場合、症例は1例だけですから統計学は必要ありません。そしてそれと同じような症例が複数例見つかれば、古典的な記述統計学を用いて複数のデータを要約した症例報告論文にします。
さらに同じような症例が多数例見つかり、それらの症例の母集団をある程度想定できれば、その母集団から少数例の標本を無作為抽出して標本集団を形成し、推測統計学を用いて標本集団のデータを要約して母集団の母数を推測し、それらの症例に関してある程度普遍性のある結果を得て論文を書きます。
例えば物理学分野の研究で物体の運動を解釈する場合、運動速度が遅い時は古典的なニュートンの運動法則の数式を用いれば実用上は十分です。しかし運動速度が非常に速い時は、相対性理論に基づいた運動法則の数式を用いて補正する必要があります。この場合、古典的なニュートンの運動法則が古典統計学つまり記述統計学に相当し、相対性理論に基づいた運動法則が近代統計学つまり推測統計学相当する、と考えればわかりやすいのではないかと思います。
ところが医学分野をはじめとする自然科学分野の研究で推測統計学を用いるには、大きな問題があります。それはほとんどの研究で、推測統計学の大原則である母集団から無作為抽出された標本集団を作成できない、ということです。
僕は主として医学・薬学分野のデータ解析屋を40年間以上やっていて、数百件の臨床試験や臨床研究に関わってきました。でも、きちんと規定された母集団から無作為抽出された標本集団を作成したことは一度もありません。僕が経験した臨床試験や臨床研究は、全て無作為標本(random sample)ではなく、手近な標本(handy sample)でした。
手近な標本は母集団から無作為抽出された標本集団ではないので、推測統計学を当てはめられず、検定も推定も無意味であり、母数を確率的に推測することは不可能です。したがって研究論文は多数例の症例報告という位置付けになり、その結果に普遍性はありません。これは中心極限定理による正規近似以前の大問題ですが、このことをしっかりと理解している医学・薬学分野の研究者は非常に少ないと思います。
数理統計学分野では、この大問題から目を逸して、推測統計学の数学的な問題を議論しがちだと思います。もちろん推測統計学の数学的な理論付けを厳密にすることは大切です。しかし研究現場のデータ解析屋である僕は、この大問題から目を逸らすわけにはいきません。そしてその対処法のひとつとして、推測統計学を用いて導き出した結果はあくまでも参考資料のひとつにすぎないので、そのまま盲信せず、研究現場から得た経験に基づいてそれらを科学的に解釈し、それを臨床現場に還元することが大切である、と考えています。
以上、参考になれば幸いです。