玄関マンガと映画の部屋作品紹介コーナーお気に入りのマンガ

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【お気に入りのマンガ】

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「風雲児たち」みなもと太郎、潮出版社

「ホモホモ7」で有名な、みなもと太郎のライフワークになると思われる大河歴史ギャグマンガで、1999年3月現在まだ連載中の傑作です。 元々は幕末から明治維新にかけて活躍した風雲児達を描くつもりで、「幕末風雲児たち」という題で連載が始められましたが、維新の事情を説明するために、その遠因となった関ヶ原の戦いから物語を始めたところ、作者が江戸時代全般の風雲児達を描くことにのめり込んでしまい、「風雲児たち」と名を変えて長期連載となり、ついに「大河歴史ギャグ」という新しい分野を開拓しました。

史実に忠実という意味では石ノ森章太郎の「マンガ・日本の歴史」に負けますが、歴史上の人物がこれほど生き生きと描かれた面白い歴史マンガは他にはちょっと思い当たりません。 歴史好き・ギャグ好き・マンガ好きな人はもちろん、歴史嫌い・ギャグ嫌い・マンガ嫌いな人にも(^^;)、ぜひお薦めしたい作品です。

この作品を始めとして手塚治虫の「ブッダ」、横山光輝の「三国志」、星野之宣の「ヤマタイカ」など、『コミックトム』の潮出版社はなかなかユニークで優れた作品を出しますねぇ。 やはり経営母体が特殊なせいでしょうか?(^^;)

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「お楽しみはこれもなのじゃ−漫画の名セリフ」みなもと太郎、河出文庫

映画ファンにはお馴染みのベストセラー、イラストレーター和田誠氏によるイラスト入り映画評論「お楽しみはこれからだ−映画の名セリフ」をパロッた、イラスト入りマンガ評論集です。 パロディ好きの和田誠氏だけに、元本の方もけっこうパロディが入っているのですが、それをまたパロッてしまうとは、さすがは怪作「ホモホモ7」の作者だけのことはあります。 とは言うものの、内容はけっこう真面目なマンガ評論で、マニア好みの作品を中心として、普通のマンガ評論ではほとんど取り上げられることのない大昔の作品や、貸し本時代の作品を取り上げているので、大昔からのマンガマニアである僕などは嬉しくなってしまいます。

このみなもと太郎氏といい、夏目房之介氏といい、いしかわじゅん氏といい、ギャグマンガ家という人種はどうしてこうもマンガ評論が得意なのでしょうか? これらの人達のマンガ評論は普通のマンガ評論家のものと違い、マンガに対する限りない愛着をベースとして、具体的かつ実践的かつ体験的な点に特徴があり、マンガ評論嫌いの僕も大いに納得してしまいます。(^^)v

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「鉄コン筋クリート」(全3巻)松本大洋、小学館

現在、マンガマニアの間で最も注目されていると言っても過言ではない松本大洋の怪作で、今のところ僕の一番好きな松本作品です。

僕が初めて読んだ松本作品はボクシングをテーマとした「ZERO」で、その大胆にデフォルメされた独特の絵と、読み手をグイグイと引き付ける異様なまでに力強い作風に驚かされたものです。 その後、野球をテーマとした「花男」でさらに驚かされ、何と表現すればよいのかわからないこの作品ですっかりまいってしまい、作品を見かければ無条件に買ってしまう作家のひとりになりました。 「花男」あたりまでは、ひょっとすると第二の大友克洋になるかも、と思っていましたが、この作品を読んだ後は、むしろ第一の松本大洋になるのではないかと思うようになりました。 ちょっと前までの新人マンガ家は、ほとんどが大友克洋モドキのタッチだったのが、最近は望月峯太郎モドキと松本大洋モドキばかりになったというのも、さもありなんという気がします。

松本大洋がこれからどこへ行こうとしているのか、しばらくの間は眼が離せません。

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「ピンポン」(全5巻)松本大洋、小学館

『週間ビッグ・スピリッツ』に連載された松本大洋の最新作で、卓球をテーマとした作者得意のスポーツ物です。 ありがちな設定にありがちな登場人物、そしてありがちなストーリー展開の陳腐なスポ根物が、彼の手にかかると、どうしてこんなにも圧倒的な力強さを持つ深い話になってしまうのでしょう?

う〜ん、松本大洋は本当にスゴイッ!!p(*o*)g

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「行け!稲中卓球部」(全13巻)古谷実、講談社

古谷実が乗りまくって描いたハチャメチャギャグマンガ。 連載初期はまだ普通のギャグマンガだったのが、作者がだんだん乗ってきてギャグがどんどん尖っていき、ついにはシュールなギャグにまで突き進んでいくところは、人気漫才コンビ・ダウンタウンのまっちゃんを思わせます。 これほどナンセンスなハチャメチャギャグマンガなのに、面白いことに卓球シーンに関しては、劇画タッチの「ピンポン」よりも、この作品の方がよりリアルに(と言うか、実際の卓球らしく)描かれているのは、作者の実経験の有無のせいなのでしょうか?

それにしても、キクちゃんの顔が瞼に焼き付いて消えません。(^^;)

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「カスミ伝(全)」 「カスミ伝S」唐沢なをき、アスキー出版局

「カスミ伝(全)」は今一番尖鋭的なギャグマンガ家・唐沢なをきの幻の名作の復刻版であり、「カスミ伝S」は10年後に描かれた続編です。 どちらの作品にも実験的かつ尖鋭的かつ反則ネタ的なギャグがめったやたらとぶち込まれている上、両作品を通してギャグのパターンが一話ごとに全て変えてあります。 両作品を比べますと、10年後に描かれた「カスミ伝S」のギャグの方がより尖っていますが、これは、同じネタは2度と使えず、鮮度と尖度がすぐに落ちやすいギャグマンガの常識からすると実に驚くべきことです。

唐沢なをきのギャグは従来のマンガ手法やギャグ手法を逆手に取った、いわばメタ・マンガあるいはメタ・ギャグが多いので、どちらかと言えばマンガやギャグを知り尽くした、すれっからしの読者やマニア向けです。 ベタなギャグに飽きた人はぜひ御覧ください。

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「海竜祭の夜(妖怪ハンター)」諸星大二郎、集英社

考古学・民俗学・宗教学に裏打ちされた作者独特の呪術的世界を、イマジネーション豊かに描く短編シリーズです。 『少年ジャンプ』の手塚賞受賞後、作者がプロのマンガ家として初めて連載した「妖怪ハンター・シリーズ」は、そのあまりにもマニアックで濃い内容のため、わずか5回で打ち切られてしまいました。 しかしこのシリーズは作者にとって愛着のあるものらしく、その後も「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」と名前を変えて、足かけ15年以上もの間ポツリポツリと描き続けられていたのです。

その新旧2つのシリーズをまとめたのがこの単行本です。 古いシリーズはリアルタイムで読んでいましたが、新しいシリーズの方は知らなかったので、古本屋でこの本を見つけた時は懐かしいと同時に少々驚きました。 新旧2つのシリーズと言っても、デビュー以来20年以上の間、作風も絵のタッチもほとんど変わらないこの作者のこと、さらっと読んだだけでは作品の新旧は判別がつかず(^^;)、違和感は全くありません。

時代におもねず、独自の世界を持つこの作者の作品は、例えば「ぼくとフリオと校庭で」中の短編「影の町」が、大評判となったアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の元ネタとなったり、手塚賞受賞作の「生物機械」が映画「エイリアン2」のアイデアを先取りしていたり、20年以上前に描かれた「暗黒神話」が最近話題となったグラハム・ハンコックの「神々の指紋」を先取りしていたりと、その豊かなイマジネーションで時代を軽々と超越します。

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「宗像教授伝奇考」星野之宣、潮出版社

おそらくは諸星大二郎の「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」に影響されたと思われる、考古学をテーマとした伝奇的短編シリーズです。 作品的には、同じように考古学と神話をテーマにした傑作長編「ヤマタイカ」には及びませんが、短編の名手である作者の特徴がよく出た好シリーズです。

星野之宣と諸星大二郎の二人は、同じくらいの時期に『少年ジャンプ』の手塚賞でデビューし(諸星大二郎が第7回手塚賞、星野之宣が第9回手塚賞)、同じような分野──SF・考古学・民俗学・神話等──を題材とした作品を描きながら、その作風と絵のタッチは正反対と言ってもよいほどに異なっています。 そしてたとえSFを描いた場合でも、本質的に伝奇作家である諸星大二郎の作品が呪術的な雰囲気漂うものになるのと同様、たとえ伝奇物を描いた場合でも、本質的にSF作家である星野之宣の作品がSF色の濃いものになってしまうのは、いかにもという感じがします。